今回は、双極性障害でラモトリギン(商:ラミクタール)からアリピプラゾール(商:エビリファイ)に変更した例です。
患者さんに伺った話では、「お医者さんに症状の話をしたら、今回から薬を変えてみようかと言われました」ということでした。
この時は、どういう意図で変更になっているか理解できていなかったため、変わった薬の用法用量と副作用を説明するだけで終わりました。しかし、やはりどういう効果を期待して薬の変更があったかを患者さんに説明できるべきだと思い、今回調査しました。
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【調査概要】
「日本うつ病学会治療ガイドライン Ⅰ.双極性障害2017」には、
躁病エピソードの治療には、
■最も推奨される治療:躁状態が中等度以上の場合
・リチウムと非定型抗精神病薬(オランザピン、アリピプラゾール、クエチアピン、リスペリドン)の併用 と記載があり、
■推奨されない治療
・ラモトリギンがあります。
また対照的に、抑うつエピソードの治療には
■推奨される治療には
・クエチアピン
・リチウム
・オランザピン
・ラモトリギン
■推奨されない治療には、
・三環系抗うつ薬
・抗うつ薬による単独療法 など
と記載があります。
さらに、維持療法の治療には、
■(リチウムの)次に推奨される治療に、
・アリピプラゾール(+リチウムの併用)
・ラモトリギン(+リチウムの併用) があります。
しかし、適応があるのはラモトリギンです。
簡単に解釈すると、
・アリピプラゾールは、躁病エピソードに用いられる。
・ラモトリギンは、抑うつエピソードに用いて、躁病エピソードでは使われない。
・維持療法にはどちらも使用する可能性がある。
ということのようです。
この患者さんは、おそらく躁状態の話を医師としたのではないかと予想されます。
次回、患者さんに確認し、今回勉強した内容を踏まえて患者さんとお話しできたらと思います。
【各薬剤における調査内容】
今回ガイドラインを読んでいたら、リチウムをはじめ各論が興味深かったので、いくつかまとめたいと思います。
<躁病エピソード治療薬>
●リチウム(商:リーマス)
まずは、どちらのエピソードでも使われるリチウムですが、
抗躁作用が報告されたのは1949年のことです。一時期はその効果に対して疑問もでたが、
非定型精神抗精神病の抗躁効果を検討するためリチウムが対照実薬として使用され、その結果を統合することが可能となった。メタ解析では、リチウムがプラセボより有意に大きな抗躁効果を発揮することが再確認されている。
しかし、リチウムに即効性はなく、オランザピンの効果に追いつくまでの10日間を要する。したがって興奮が激しい躁病患者にはリチウムと何らかの非定型抗精神病薬を併用する。
副作用は、手指の振戦(27%)、多尿(30~35%)、甲状腺機能低下(5~35%)、記憶障害(28%)
、体重増加(19%)、鎮静(12%)、消化器症状(10%)などである。
リチウムは有効濃度と中毒を生じる濃度が近いので、TDMを行う。
躁病エピソードの場合には1.0mEq/L前後と高い濃度を維持することが必要である。
投与初期又は用量を増量した時には1週間に1回程度を目途に測定する。また、必ず朝方服薬前の血中リチウム濃度を測定する。
原則として、非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)は併用すべきではない。理由は、NSAIDsによりリチウムの腎臓から排泄阻害され、リチウム中毒の危険性が生じるからである。
NSAIDsは、患者さんに有益な情報と思ったので、他にもリチウム濃度を上げる薬を添付文書で確認しました。添付文書記載の薬剤は以下の通りです。
・利尿剤[チアジド系利尿剤、ループ利尿剤等]
・アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬
・アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬
・メトロニダゾール
これらの薬が、新規で処方された患者さんには、しばらくの間は中毒症状をしっかり意識するよう勧めたいと思います。
●オランザピン(商:ジプレキサ)
プラセボよりも有意に大きな抗躁効果を発揮することが確認されている。
食欲増加や体重増加、脂質異常、血糖値上昇や糖尿病の増悪をきたしやすいため、糖尿病の患者さんには禁忌である。
※クエチアピン(商:セロクエル)は、オランザピンの特徴に似ている。ただし、クエチアピンの保険適応に「双極性障害における躁症状」はない。
●アリピプラゾール(商:エビリファイ)
プラセボよりも有意に大きな抗躁効果を発揮することが確認されている。
錐体外路障害や高プロラクチン血症は生じにくいが、アカシジアの頻度は高い。
●リスペリドン(商:リスパダール)※保険適応外
プラセボよりも有意に大きな抗躁効果を発揮することが確認されている。
錐体外路症状や高プロラクチン血症を生じることが比較的多い。
<抑うつエピソードの治療>
●リチウム(商:リーマス)※保険適応外
主に1970年代に、小規模ではあるが、プラセボと比較して、抑うつエピソードの急性期の治療薬として有効であったという9つの報告があり、さらにメタ解析の結果においても、リチウムの有効性が報告されている。
しかし、効果発現に6~8週間を要することがある、また、最終投与後12時間後の血中濃度が0.8mEq/Lを超えるまで増量する必要がある。
ただし、最近の大規模プラセボ対象RCTの結果では、プラセボと効果の面で有意差を認めなかったという報告もある。
●オランザピン(商:ジプレキサ)
保険適応あり
●ラモトリギン(商:ラミクタール)※保険適応外
抑うつエピソードの急性期治療に関する5つのプラセボ対象RCTのうつ4つで有意差を認めなかった。しかし、中等症~重症の抑うつエピソードの症例群に対しては、プラセボと比較して有効であったという報告もある。
ラモトリギンの投与により、皮膚粘膜眼症候群(スティーブン・ジョンソン症候群)や中毒表皮壊死症(ライエル症候群)などの重篤な皮膚症状があれわれることがあるので、注意が必要である。
これらの重篤な皮膚症状は、投与開始量が推奨量よりも多かった症例、急速に増量を行った症例、バルプロ酸との併用症例に高頻度に認められた。
ラミクタールの処方箋監査では、
1.開始量
2.増量タイミング
3.バルプロ酸との併用有無
などに注意して監査を行っていきたいと思います。
参考:
日本うつ病学会治療ガイドライン Ⅰ.双極性障害2017
http://www.secretariat.ne.jp/jsmd/mood_disorder/img/171130.pdf
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