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【制吐薬】ドンペリドンとメトクロプラミドの比較

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ドパミンD2受容体の遮断作用で、制吐薬として使用されるンペリドン(商:ナウゼリン)メトクロプラミド(商:プリンペラン)ですが、その2つにどのような違いがあるのかまとめていきたいと思います。

血液脳関門の透過性の違い

ドンペリドンは血液脳関門を通り抜けにくく
メトクロプラミドは血液脳関門を通り抜けやすい
という違いがあります。1)

そのため、ドンペリドンは振戦や歩行困難などの運動障害を起こす「錐体外路障害」を起こしにくいと言われています。
また、メトクロプラミドよりも眠気や精神過敏といった中枢性の副作用が少ないとされています。2)

眠気に関する注意書きの違い

実際に2つの薬剤の添付文書の「重要な基本的注意」の眠気に関する記載は以下のような違いがあります。

ドンペリドン(参考:ナウゼリン錠の添付文書)】
眠気、めまい・ふらつきがあらわれることがあるので、本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械操作に注意させること

【メトクロプラミド(参考:プリンペラン錠の添付文書)】
眠気、めまいがあらわれることがあるので、本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないように注意すること。

メトクロプラミドでは、自動車の運転等危険を伴う機械操作は「禁止」だが、ドンペリドンでは、注意は必要だが「可能」です。

パーキンソン病患者への使用のしやすさ

ドンペリドンは血液脳関門を通過しにくいため、パーキンソン病患者でも使用しやすい。ただし、中枢移行性が全くないわけではなく、錐体外路障害も副作用として報告されており、注意を怠らないようにする。
と言われています。3)

実際に、「パーキンソン病診療ガイドライン 2018 第Ⅲ編 第2章 治療総論」においても
ドンペリドンは末梢性に抗ドパミン作用を発揮するが中枢移行性が極めて低いため,パーキンソニズムをほとんど生じない。4)
と記載されています。

さらに、ドンペリドンの効能効果には、「レボドパ製剤投与時の消化器症状」があります。
あわせて、「ガイドライン 第Ⅲ編 第3章 運動症状の治療」においても、レボドパの吸収障害の改善のため、消化管運動を改善する目的でドンペリドンやモサプリドを併用することが有用と記載されています。4)

薬理作用の違い

どちらも、主な薬理作用は、「上部消化管並びにCTZ(化学受容器引き金帯)のドパミンD2受容体を遮断による制吐作用」です。

しかし、メトクロプラミドは、血液脳関門を通過できるため、嘔吐中枢のドパミンD2受容体も遮断できると言われています。
さらに、セロトニン5-HT3受容体遮断作用による制吐作用もあると考えられています。
また、5-HT4受容体刺激作用により消化管運動促進の効果が示されており、効能・効果として「単純X線検査時のバリウムの通過促進」が認められています。3)

妊娠と授乳中の安全性の違い

妊娠中の安全性

ドンペリドンは「妊娠又は妊娠している可能性のある女性」は禁忌です。
そのため、妊娠中はメトクロプラミドを使うのが一般的なようです。2)

しかし、「妊娠と薬情報センター」と虎の門病院の大規模な妊娠中の薬剤曝露症例のデータベースを使った研究では、妊娠初期にドンペリドンとコントロール薬(妊娠初期にリスクがないことが明らかな薬)それぞれを服用した際の奇形発生率は、2.9%と1.7%となり、有意な差は見られず、ドンペリドンの「胎児へのリスク」は認めらなかったとのこと。5)

あわせて、国立成育医療研究センターのHPには以下のような記載もあります。
つわりと知らずに本剤を服用し、妊娠継続に不安を抱えていた女性にとって、信頼性の高い情報を提供することによって安心して妊娠継続することが可能になるとのこと。5)

薬剤師としては、妊娠に気がつけばもちろん薬の変更を疑義・提案しますが、もし初期に妊娠と気が付かずにドンペリドンを服用してしまった患者さんについては、上記のデータを説明し、安心してもらうのも大切な服薬指導と思われます。

授乳中の安全性について

授乳中はドンペリドンを使用するのが一般的と言われています。2)

さらに、同一書籍内では以下のことも言われています。
授乳中の薬の安全性評価である「Medications and Mother’s Milk」ではンペリドンは最も安全なL1メトクロプラミドは5段階中2番目のL2と評価されています。
どちらも安全性は高く評価されているため、授乳中にどちらを使って問題ありませんが、特にこだわりがなければ、ドンペリドンを選ぶのが一般的。

また、授乳中の服用の可否について、筆者がよく参考にさせていただいている「国立成育医療研究センター 授乳中に安全に使用できると考えられる薬」でも、ドンペリドンメトクロプラミドどちらも記載されています(2023年9月20日調べ)。6)

オススメの書籍

今回の記事を読んで面白いと思った方は、薬を比較して勉強するのが向いているのだと思います。(比較すると、同時に複数の薬が勉強できるのもメリット

また、今回は私も自分では気が付けなかったことに対して、書籍から情報を得ることができました。自分だけではできない発見をさせれくれるのも本の良いところだと感じました。

ここでは、薬を比較して紹介してくれる書籍2冊を紹介しますので、興味がある方はぜひ読んでみてください。

参考

1)ナウゼリン錠IF
https://medical.kyowakirin.co.jp/site/drugpdf/interv/nau_tdy_in.pdf

2)薬局ですぐに役立つ薬の比較と使い分け100[著:児島悠史]

3)患者に合わせた処方意図がわかる!同効薬・類似薬のトリセツ「監修:稲森正彦、日下部明彦」

パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/parkinson_2018.html

5)国立成育医療研究センターHP「妊婦禁忌とされた吐き気止めの「胎児リスク」認められず ~大規模データベースを活用した世界初の研究で、妊婦の安心に繋げる~」
https://www.ncchd.go.jp/press/2021/210310.html

6)国立成育医療研究センターHP「授乳中に安全に使用できると考えられる薬 -薬効順 -」
https://www.ncchd.go.jp/kusuri/lactation/druglist_yakkou.html#section14