整形外科でこむら返り等に処方される芍薬甘草湯。いわゆるツムラやクラシエの68番。
即効性も期待でき、よく処方される漢方薬です。
しかし、漫然と継続的に処方される例もあり、ネットでも「毎日飲んで大丈夫?」と検索される件数が多く、長期服用への安全性を心配されている患者さんも多いようです。
そこで、今回は芍薬甘草湯の代表的な重篤な副作用である偽アルドステロン症の症状について説明しますので、芍薬甘草湯を服用していてそのような症状がある人は一度医師に報告することをオススメします。
ただし、この記事に示した症状(高血圧、脱力感やむくみなど)以外にも注意すべき副作用である可能性があるため、体調・症状の変化は必ず医師に報告するようにしましょう。
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偽アルドステロン症とは
血中のアルドステロンが増えていないのに、「アルドステロン症」の症状を示す病態です。
※ちなみにアルドステロン症は、アルドステロンというホルモンが過剰に分泌された結果、高血圧、むくみ、カリウム喪失などを起こす病気です。
主な症状として、「手足の力が抜けたり弱くなったりする」、「血圧が上がる」などが知られています。これに次いで、「筋肉痛」、「体のだるさ」、「手足のしびれ」、「こむら返り」、「麻痺」、「頭痛」、「顔や手足のむくみ」、「のどの渇き」、「食欲の低下」、「動悸」、「気分の悪さ」、「吐き気」、「嘔吐」などがあります。症状が進むと、まれに「意識がなくなる」、「体を動かすと息苦しくなる」、「歩いたり立ったりできなくなる」、「赤褐色の尿が出る」、「尿がたくさん出たり、出にくくなったりする」、「糖尿病が悪くなる」こともあります。
主な原因は、甘草あるいはその主成分であるグリチルリチン(GL)を含む医薬品の服用です。
体内に塩分と水がたまり過ぎることで血圧の上昇やむくみが起こり、体からカリウムが失われるために、力が抜けたり、筋肉痛やこむら返りなどの筋肉の異常が起こったりします。程度が重い場合には、筋肉が壊れたり、脈が乱れたりします。
頻度の多い症状について
臨床症状の頻度は、
・四肢脱力・筋力低下が約60%
・高血圧が35%
この2者が偽アルドステロン症の発見の契機として最も多い。自宅で血圧測定が可能な場合は、血圧上昇に留意するよう指導することも、本症発見のために有用と考えられる。
他の症状としては、
・全身倦怠感が約20%
・浮腫が約15%
の症例で報告されている。ミオパチーによる四肢の筋肉痛・しびれ、頭痛、口渇、食思不振も多い。
副作用が出やすい人について
統計では、男:女=1:2で女性の発症が多い。
報告例の80%が50歳~80歳代である。
低身長、低体重など体表面積が小さい者や高齢者に生じやすいとされている。
統計では、男:女=1:2と記載があるが、「甘草製剤による偽アルドステロン症のわが国における現状」を確認しても、副作用報告された例での比率であり、母数の比率の記載はないので、「女性の方が発症しやすい」とは言いづらいと思われる。
注意すべき併用薬について
高血圧症や心不全に対して、サイアザイド系降圧利尿薬やループ利尿薬が投与されている場合や、糖尿病に対してインスリンが投与されている場合には、低カリウム血症を生じ易く、重篤化し易いので、注意が必要である。
芍薬甘草湯の添付文書の併用注意には、インスリンは記載されていない。
しかし、インスリンにはカリウムを下げる作用がある(参考としてGI療法)。
重篤副作用疾患別対応マニュアルには、インスリンの記載があるため、ここでしっかり覚えておいてほしい。
偽アルドステロン症の好発時期
使用開始後10日以内の早期に発症したものから、数年以上の使用の後に発症したものまであり、使用期間と発症との間に一定の傾向は認められない。ただし、3ヶ月以内に発症したものが約40%を占める。
どのくらいの量で副作用がでるか?
甘草あるいはグリチルリチン(GL)による本症の初期の報告例の大部分は、GL500mg/日以上の大量投与例であったが、その後の報告では、GL150mg/日あるいはそれ以下の比較的少量投与例や、少量の甘草抽出物を含有するに過ぎない抗潰瘍剤などで発症した例が多数を占めるようになった。生薬としての甘草を1日投与量として1~2gしか含まない医療用漢方薬や、仁丹の習慣的使用による発症例も報告されている。(参考:重篤副作用疾患別対応マニュアル偽アルドステロン症)
そのため、どの程度の量を服用すると危険かは明言できないと思われます。
なお、芍薬甘草湯の通常の1日量には、甘草6.0g:グリチルリチンとしては240mg)が含まれています。(参考:全日本民医連38.漢方薬の副作用)
ただし、副作用の発生率は甘草やGLの用量依存性の傾向があるといわれており、芍薬甘草湯を長期で服用する場合には1日1包程度にすることが、偽アルドステロン症の発症予防に有用と言われています。(参考:日本医事新報社甘草を含有する漢方薬の副作用の頻度)
偽アルドステロン症の副作用報告があった薬
薬事法第77条の4の2に基づく副作用報告で件数の多かった上位5位の医薬品を記載しておきます。
なお、各医薬品の販売量などは異なり、医薬品間での安全性の比較はできないです。
・芍薬甘草湯
・グリチルリチン・DL-メチオニン配合剤(商:グリチロン配合錠)
・グリチルリチン・グリシン・システイン配合剤(商:強力ネオミノファーゲンシー)
・加味逍遥散
・桂枝加朮附湯
参考
重篤副作用疾患別対応マニュアル偽アルドステロン症
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/10/dl/s1019-4d9.pdf
全日本民医連38.漢方薬の副作用
https://www.min-iren.gr.jp/?p=33878
日本医事新報社甘草を含有する漢方薬の副作用の頻度
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=2079
ツムラ芍薬甘草湯エキス顆粒(医療用)の副作用発現頻度調査
https://medical.tsumura.co.jp/sites/default/files/media_document/P068AF_%E3%83%AA%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%86%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B0%E7%89%88.pdf
甘草製剤による偽アルドステロン症のわが国における現状
https://www.wakan-iyaku.gr.jp/wp-content/uploads/pdf/19910101_060614114241.pdf
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