今回は、アンギオテンシン変換酵素阻害薬(以下、ACE阻害薬)とアンギオテンシン受容体Ⅱ阻害薬(以下、ARB)の違いや使い分けについてまとめたいと思います。
「どちらも降圧剤で、似たような作用機序なのにACE阻害薬には特徴的な副作用に空咳があって、ACE阻害薬って使いどころあるのかな?」とか思っていませんか。
私は思っていました。
ACE阻害薬が選ばれる理由もしっかりあるので、ぜひ今回の記事を読んでみてください。
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作用機序の違い
まず、2つの薬の作用機序の違いを説明しやすくするために、レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系のメカニズム図を載せます。
まずはアンギオテンシンⅡがAT1受容体にくっつくと血圧が上昇するのですが、ARBはアンギオテンシンⅡがAT1受容体にくっつくのを邪魔します。その結果、血圧が高くなるのを抑えます。
一方で、ACE阻害薬は、ACEを阻害することでアンギオテンシンⅠからアンギオテンシンⅡに変わるのを止めます。結果、アンギオテンシンⅡが減って、血圧が高くなるのを抑えます。
2つの薬の作用は「アンギオテンシンⅡの働きを抑える」という点でよく似ています。しかし、ここで注目してほしいのは「ACEは他にブラジキニンという物質を不活性化させている」ということ!!
つまり、ACE阻害薬を使うとブラジキニンが不活性化しにくくなります。ブラジキニンがどんどん増えていくということ。
実は、このブラジキニンが気道の受容体を刺激し咳を起こさせるため、ACE阻害薬は空咳が起こると言われています。
なら、ARBとACE阻害薬は血圧を下げる作用は似ていて、ACE阻害薬は空咳を起こすなら、ACE阻害薬が使用されることなんてないんじゃないの?と私は思っていましたが、ACE阻害薬を選択される例もしっかりあります。
ここからはACE阻害薬が優先して使用される例を挙げていきます。
ACE阻害薬がARBよりも優先される例
書籍やガイドラインなどで、ACE阻害薬の選択に関する情報を集めたので、まずは記載していきます。
●冠動脈疾患患者には,心不全を含めた心血管イベントの発症抑制と生命予後改善のため,ACE阻害薬を投与する。心筋梗塞後の二次予防においても、心不全の発症予防のためにACE阻害薬、β遮断薬、スタチン、ミネラルコルチコイド受容体拮抗を投与する。なおARBは,ACE阻害薬に忍容性がない例で,とくに左室機能障害のある例に投与する。1)
●心不全症状の有無にかかわらずLVEF低下例および心筋梗塞後患者においては、高血圧の有無にかかわらずレニンーアンギオテンシン系阻害薬としてはACE阻害薬を投与し、ACE阻害薬の容認性がない場合にはARBを用いることが推奨されている。これは、冠動脈疾患患者における心血管イベントの発症抑制と生命予後改善効果が示されているためである。2)
●心不全合併している高血圧治療の場合には、ACE阻害薬を優先する。3)
以上より、ACE阻害薬は、冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞など)患者や心不全の高血圧患者に使用されていると思われます。
ちなみに、サクビトリルバルサルタン(商品名:エンレスト)については、駆出率が低下した心不全(HFrEF)に対して、ACE阻害薬エナラプリルを上回る生命予後改善効果を有すると言われています。1)
一方で、降圧効果については以下のような記載がありました。
●ACE阻害薬単独での降圧効果はARBとほぼ同等かやや弱いとされている。2)
●ACE阻害薬とARBのどちらも高血圧治療の第一選択薬に選ばれ、高血圧治療ガイドライン2014でも「ACE阻害薬またはARB」と一括りに扱われている。4)
これらの情報と、ACE阻害薬は副作用で空咳が出やすいというデメリットを考慮すると、単純な高血圧では、ARBが選択されやすいと思われます。
また、糖尿病合併高血圧患者における降圧薬選択に際しては、
●ARB、ACE阻害薬が第一選択薬として推奨される。5)
こととACE阻害薬の空咳のデメリットを考慮すると、糖尿病合併高血圧患者においてもARBが選ばれやすいように思われます。
ACE阻害薬の空咳を誤嚥性肺炎に利用する
ACE阻害薬の代表的な副作用である空咳。
ACE阻害薬の中でも空咳が少ないとされるイミダプリル(商品名:タナトリル)でも4.76%の頻度で起こります。この空咳はACE阻害薬を継続できない最大の原因となっており、ACE阻害薬中断の理由の70%と言われています。4)
一方で、高血圧治療ガイドラインには以下のような記載があります。
●ACE阻害薬はむしろ咳反射を亢進することで,高齢者での誤嚥性肺炎の頻度を減らすことが報告されている。副作用としての咳が自制内であれば、誤嚥性肺炎の既往(不顕性を含む)のある高齢者では、ACE阻害薬が推奨される。5)
そのため、「空咳が出ればACE阻害薬は中断」というわけではなく、空咳を治療に利用している場合もあるので注意しましょう。
オススメの書籍
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参考
1)急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/06/JCS2017_tsutsui_h.pdf
2)患者に合わせた処方意図がわかる!同効薬・類似薬のトリセツ「監修:稲森正彦、日下部明彦」
3)糖尿病標準診療マニュアル2023
https://human-data.or.jp/wp/wp-content/uploads/2023/03/DMmanual_2023.pdf
4)薬局ですぐに役立つ薬の比較と使い分け100[著:児島悠史]
5)高血圧治療ガイドライン2014
https://www.jpnsh.jp/data/jsh2014/jsh2014v1_1.pdf
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