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ワーファリンで検査値PT-INRが上がったけど大丈夫?

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今回は、患者さんから実際にあった質問をもとに記事を書いています。

患者さん(75歳男性)からの質問は「ワーファリン(成分名:ワルファリン)を飲み始めて、この検査値(PT-INR)が高くなっているのだけど、これって問題ない?」でした。
その患者さんのPT-INRは1.7でした。

結論としては、「ワーファリンの治療域に関して、PT-INRは機械式人工弁患者を除いて、2.0~3.0とされている。日本人の70歳以上の非弁膜症性心房細動では1.6~2.6が勧められる。」ため、今回のケースではPT-INRが高くなったのは問題ないです。
参考:経口抗凝固薬の適正使用-ワルファリン-

ここからは、この内容について、詳細にまとめていきたいと思います。

ちなみに動画Verも作っているので、読むのが面倒な人はコチラを利用してください。

PT-INRって何の検査値?正常値は?

正式名は、ProthrombinTime-InternationalNormalizedRatio:プロトロンビン時間−国際標準化比で、PT-INRはその略血液の凝固能を示し、主として抗凝固薬であるワルファリンの投与量管理のために使われている。1982年に世界保健機関(WHO)に採用され、日本には1985年に紹介された。正常値は0.80〜1.20である。

凝固能検査に使われる組織トロンボプラスチンは生物由来製剤であるため、試薬メーカーや製造ロットによって測定値が変動するという問題がある。施設によってもバラツキが生じる。こうした不都合を解消するため、測定値から容易に標準化値を得る仕組みとして考案された。

簡単にいうと、PTを測っても試薬によって数値が異なるので、その試薬のスペックも数値化して、別の試薬や施設間でも比較できるようにしたもの

ワーファリンのPT-INRの治療域は?

機械式人工弁患者を除いて、PT-INR2.0~3.0の間を治療域としてコントロールされている。PT-INRが2.0を下回ると、血栓塞栓症の頻度が増加し、3.0を超えると出血の合併症の頻度が増すとされている日本人の高齢者については、70歳以上ではPT-INR1.6~2.6でのコントロールが勧められる。

ただし近年の非弁膜症性心房細動に対するワーファリン療法では、高齢者と若年者の区別なく、INR1.6~2.6が塞栓症と大出血を最小限とする至適治療域であることが確認された。この結果を踏まえて、脳梗塞既往のない一次予防かつそれほど高リスクでない(CHADS2スコア≤2点)患者に対するワルファリン療法は、年齢に関係なくINR1.6~2.6での管理が推奨に変更された。一方、脳梗塞既往を有する二次予防の患者やリスクの高い患者(CHADS、スコア3点や担癌患者など)においては、従来と同様に70歳未満の患者の場合はINR2.0~3.0、そして70歳以上の高齢者の場合はINR1.6~2.6での管理が推奨とされた。

機械式人工弁の場合の治療域は?

機械弁例におけるワルファリンコントロールのINRの目安は以下の通りである。(参考:2020改訂版弁膜症治療のガイドライン)

●大動脈弁位:INR2.0~2.5
●大動脈弁位かつ塞栓症リスク有り:INR2.0~3.0
●僧帽弁位:INR2.0~3.0

ざっくりとだが、ワーファリンを服用している患者さんのPT-INRは2.0前後を目指すことが多いようである。

PT-INRが治療域を超えた場合

ワーファリンが効きすぎた場合には、出血などのリスクが考えられる。前述にあるように、PT-INRが3.0を超えると出血の合併症の頻度が増すとされている。
では、どのくらいPT-INRが高くなるとどのような対処するのだろうか?
「経口抗凝固薬の適正使用-ワルファリン-」には以下のように記載されている。

①PT-INRが少し治療域を超えた程度では日差変動や測定に係る問題の可能性があるので投与量を変更する必要はない。出血を伴わず、PT-INRが5.0未満であれば、PT-INRを頻回に測定し、投与を1日中止するか投与量を減量するだけで十分なことが多い。PT-INRの測定を頻回に行い、その結果により投与量を再度調整する。

出血なく、PT-INRが5.0~9.0の場合
ワルファリンを中止し、少量のビタミンK(VitK)の経口投与をするか、しないで経過をみる。VitKの注射剤を使用する必要性は少ない。PT-INRが治療域近くになった場合、減量した用量でワルファリンを再開する。

ここからは筆者の見解であるが、出血を伴わない場合が前提になっているので、青あざなどの皮下出血があり医師に報告していないようであれば、医師に報告するのが適切と思われる。

参考

経口抗凝固薬の適正使用-ワルファリン-
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsth/30/1/30_2019_JJTH_30_1_106-111/_pdf/-char/ja

非弁膜症性心房細動における抗凝固療法のガイドライン改訂
https://www.jsth.org/wordpress/wp-content/uploads/2021/04/oyakudachi_202104_02.pdf

日経メディカル進化する脳卒中
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/special/stroke08/keyword/200803/505716.html

2020改訂版弁膜症治療のガイドライン
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/04/JCS2020_Izumi_Eishi.pdf