異動先の薬局で、関節リウマチ(RA)の処方箋がよくくるので、患者さんへの指導の内容を充実させるために抗リウマチ薬をまとめました。
なお、参考にさせていただいたガイドラインは
・関節リウマチ治療におけるメトトレキサート診療ガイドライン2016年改訂版(以下、MTXガイドライン)
・関節リウマチ診療ガイドライン2014(以下、RAガイドライン)
です。
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禁忌でなければMTXが第一選択薬とされる(参考:今日の治療薬2018 p320)
なお、禁忌は以下の通りである。
1.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人[催奇形性を疑う症例報告があり、また、動物実験で胎児死亡及び先天異常が報告されている。]
2.本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
3.骨髄抑制のある患者[骨髄抑制を増悪させるおそれがある。]
4.慢性肝疾患のある患者[副作用が強くあらわれるおそれがある。]
5.腎障害のある患者[副作用が強くあらわれるおそれがある。]
6.授乳婦[母乳中への移行が報告されている。]
7.胸水、腹水等のある患者[胸水、腹水等に長期間貯留して毒性が増強されることがある。]
8.活動性結核の患者[症状を悪化させるおそれがある。]
MTXの関節リウマチの用法用量
通常、1週間単位の投与量をメトトレキサートとして6mgとし、1週間単位の投与量を1回又は2〜3回に分割して経口投与する。分割して投与する場合、初日から2日目にかけて12時間間隔で投与する。1回又は2回分割投与の場合は残りの6日間、3回分割投与の場合は残りの5日間は休薬する。これを1週間ごとに繰り返す。
なお、患者の年齢、症状、忍容性及び本剤に対する反応等に応じて適宜増減するが、1週間単位の投与量として16mgを超えないようにする。
ここからは参考情報です。
・一般に高齢者では4mg/週から開始し、増量の速度を遅くした方が安全性が高い。(参考:今日の治療薬2018 p320)
・MTX8mg/週を超えて使用する際は、1~2日にかけて、1週あたりの投与量を12時間ごとに分割投与する方が、消化器症状は少なく、bioavailabilityが高い可能性がある。(参考:MTXガイドライン2016 p33)
治療で併用される薬剤
MTX単剤で効果不十分であれば、通常10~12mg/週までは増量することが勧められる。目標用量の10~12mg/週まで増量後もさらに十分な効果が得られない場合は、個々のリスク・ベネフィットのバランスを考えながら最大16mg/週までの漸減やMTXをアンカーとして他の従来型合成抗リウマチ薬(csDMARD)や生物学的製剤あるいはJAK阻害薬との併用療法のいずれかを選択する。(参考:MTXガイドライン2016 p31)
副作用予防で使用される薬
葉酸(商:フォリアミン)
1週間で7mg以下の低用量の葉酸の併用によって,葉酸代謝拮抗作用をもつMTXの副作用である肝障害,消化管障害(嘔気・嘔吐・腹痛)の抑制効果は存在する。粘膜障害(口内炎)は軽減する傾向にある。しかし,血球減少の予防効果についてのエビデンスは十分でなく,結論付けられていない。また,葉酸と活性型葉酸双方ともMTXの副作用抑制効果が存在し,どちらを使用するのがよいかについての検討は十分なされていないが有意差はなく,コスト的には葉酸がよい。(参考:RAガイドライン2014 MTX4の項)
日常臨床で使用する1週間で7mg以下の低用量の葉酸の併用によって,葉酸と活性型葉酸双方ともMTXの有効性を減弱させないことが示されている。また葉酸の併用により,MTXの増量が可能 となる。すべてのMTX使用者へ葉酸を併用すべきかについては明確にされていないが,他国のほとんどのガイドラインで推奨されている(0.5〜2mg/日)。(参考:RAガイドライン2014 MTX4の項)
葉酸が多すぎるとMTXの効果を減弱させる可能性も考えられるため、葉酸サプリメントを服用しないように指導することも重要と思われます。
なお、投与するタイミングは、MTX最終投与後24~48時間後に投与する。(参考:MTXガイドライン2016 p45)
ST合剤(商:バクタ)
ニューモシスチス肺炎の発症リスクが高い症例には、ST合剤(1錠または1g/日 連日あるいは2錠または2g/日 週3回)による化学予防を考慮する。ST合剤が使用できない場合には、ペンタミジン・イセチオン酸塩吸入(商:ベナンバックス)、またはアトバコン内用懸濁液(商:サムチレール)の使用を考慮する。(参考:MTXガイドライン2016 p77)
ST合剤を使用できない場合の検討のため、「禁忌」「副作用」をまとめておきます。
ST合剤の禁忌は、
1 本剤の成分又はサルファ剤に対し過敏症の既往歴のある患者
2 妊婦又は妊娠している可能性のある女性
3 低出生体重児、新生児
4 グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G-6-PD)欠乏患者[溶血を起こすおそれがある。]
ちなみに、G-6-PD欠乏アフリカ、地中海沿岸、東南アジアでの頻度は高いが、日本人の頻度は約0.1%である。
MTXがそもそも妊婦禁忌であることとG-6-PD欠乏が日本人に少ないことを考慮すると禁忌で使用不可の例は少なそうです。
ST合剤の重大な副作用では、血液障害(再生不良性貧血、溶血性貧血、巨赤芽球性貧血、メトヘモグロビン血症、汎血球減少、無顆粒球症、血小板減少症、血栓性血小板減少 性紫斑病、溶血性尿毒症症候群)、ショックなどがある。
(これらを抽出したのはバクタ配合錠の患者向医薬品ガイドを参考としました。)
また頻度の多い副作用(0.1~5%未満)には、
発疹、そう痒感、食欲不振、悪心・嘔吐、下痢、便秘、腹痛、胃不快感、舌炎、口角炎・口内炎、頭痛、発熱、熱感
ただし、MTXを併用している場合には、MTXの副作用に消化器症状(嘔気・嘔吐・腹痛)や口内炎があるので、服薬指導でこれらの症状を確認しても、ST合剤が原因と判断するのは難しいのかと思います。
ホリナートカルシウム:活性型葉酸(商:ロイコボリン)
重篤な副作用発現時(重篤あるいは症状を伴う血球減少症など)にはMTXを中止するとともに、活性型葉酸製剤であるロイコボリン投与を行う。
(参考:MTXガイドライン2016 p48)
患者さん向け資材から指導ポイントを整理
ここでは「リウマトレックスの患者さん向け資材」「メトトレキサート2mg「あゆみ」患者さん向け資材」を参考に指導ポイントをまとめたいと思います。
●飲み忘れた分をまとめて飲まない
→万が一飲み忘れた場合は主治医に相談してください。連絡ができずに迷った場合に は、その週は服用しないで翌週から指示通りに飲むようにしてください。次の診察のときに、飲み忘れたことを必ず主治医に伝えてもらう。
(参考:メトトレキサートを服用する患者さんへ第3版 p7)
●他のお薬(特にかぜ薬、痛み止め)を飲む場合は医師にご相談を
→NSAIDsのプロスタグランジン合成阻害作用による腎血流量の低下及びナトリウム、水分貯留傾向のためメトトレキサートの排泄が遅延で、副作用が増強する可能性があるため。
●妊娠は避ける(男性は配偶者が妊娠しないよう注意する)
→妊娠する可能性のある婦人に投与する場合は、投与中及び投与終了後少なくとも1月経周期は妊娠を避けるよう注意を与えること。男性に投与する場合は、投与中及び投与終了後少なくとも3ヵ月間は配偶者が妊娠を避けるよう注意を与えること
(参考:リウマトレックス添付文書)
●妊娠している方、授乳中の方は飲まない
→どちらも禁忌項目です。
●お酒はなるべく飲まない
→肝臓への負担を考慮しての記載と思われる。
●コップ1杯の水と必ず一緒に飲む
→食道に停留し、崩壊すると食道潰瘍を起こすおそれがあるため。(参考:リウマトレックス IF)
●生ワクチンの予防接種を避ける
→免疫機能が抑制された患者への生ワクチン接種により、ワクチン由来の感染を増強又は持続させるおそれがある。生ワクチンには麻疹、風疹、おたふくかぜ、水痘(みずぼうそう)、BCGなどがあります。(参考:リウマトレックス IF)
ただし、MTXガイドライン2016 p10には「肺炎球菌ワクチン(65歳以上)、インフルエンザワクチンは積極的に実施する」よう記載があるので、それらのワクチンについて患者さんに医師に意見を伺うよう促すことも重要と思われる。
参考
関節リウマチ治療におけるメトトレキサート診療ガイドライン2016年改訂版
https://www.ryumachi-jp.com/publication/pdf/MTX2016kanni.pdf
関節リウマチ診療ガイドライン2014
https://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0064/G0000706/0011
バクタ配合錠の患者向医薬品ガイド
https://www.shionogi.co.jp/med/products/drug_ha/g0l2sg000000367m-att/BKT-PG201906.pdf
リウマトレックスの患者さん向け資材
https://pfizerpro.jp/download.php?key=AFvJv5RajSE2WpP55pX$ww==
メトトレキサート2mg「あゆみ」患者さん向け資材
https://www.ayumi-pharma.com/upd/med/guidance_pdf/2/E00343MTAshido(RA).pdf
メトトレキサートを服用する患者さんへ第3版(一般社団法人 日本リウマチ学会)
https://www.ryumachi-jp.com/pdf/mtx_2020.pdf